吾は、数多の猛者と戦った。 巨大な太刀を軽々と振るう、傲岸不遜な大男。常に笑みを浮かべているが、瞳は刃のように尖った男。妖艶な美貌と危険な刃を秘めた女。 己こそ最強と信じたそれらと、吾は斬り合った。 一瞬の油断が、即時死へと繋がる空気が旨かった。刃と刃が擦れ合って響かせる金切声は、吾を興奮させた。 何より、相手を斬ることができたときの喜びはこの上無い。 吾が切っ先が皮を破って肉を裂き、骨を断つ感触は何者にも優る至福の一時だった。 吾、刀と呼ばれるものにとって、獲物の身体こそ最高の褒美である。 その獲物を斬って久しい。 もう、幾年も吾が刃は鞘に収められたままだ。 斬りたい。 斬りたい。斬りたい。斬りたい。 斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい。 血を、肉を、骨を、臓物を。新鮮な獲物を斬りたい。 鍛え上げられた戦士の肉を。柔らかな乙女の肉を。未成熟な童の肉を。 獲物を斬りたい。 その望みだけで、吾は狂いそうだ。 しかし、吾が望みは果たせそうに無い。戦乱の世はとうに過ぎ去り、太平の世へと変わったこの時代に吾の役目は終わっていた。 今は唯、見世物として飾られ、何時の日か朽ちていくのみ。 だが、吾は望む。この場より解放してくれる者を。再び、吾に獲物を斬らせてくれる者を。 吾が望みを、解き放つ者が現れることを望む。 |